“一隅”№25
- 公開日
- 2010/08/23
- 更新日
- 2010/08/23
校長メッセージ
−安心と自立−
平成21年12月22日、「きらの子座」公演のお礼に原東小をお邪魔しました。そこでの話題の中にみなさんにも是非聞いてほしい内容がありました。H先生が原東小時代に教えた子のいる母親の話です。今は高校生になる末娘と母親の関係についてです。
母とその子は小さな時からいつもべったりと肌をすりあわせる仲でした。
高校生になる娘はもう母親の体を密着させる愛情を嫌がります。当然です。しかしです。嫌がる素振りなのに、娘が自ら体をすり寄せてくることがあるというのです。むろん見た目には嫌がっているはずですが。
そんな時は決まって娘さんはメールを頻繁に交わしているといいます。友達との関係で何か「困っていること、悩んでいることがあるな。」と母親は了解します。了解はしますが、立ち入って問い詰めたりはしません。
この話を聞いた翌日、産経新聞に「『くっつくこと』心身の成長に不可欠」(H21.12.23)と題された記事を目にしました。東京大学大学院准教授、遠藤利彦に取材した記事です。
乳幼児期の発達とアタッチメント(愛着)の関係について「初めは身体的にくっつくことで子供は安心し、徐々に気持ちの上で安心感という感覚を得ていきます。そして、乳幼児期に信頼関係を築くことが、将来的にも大きな影響を及ぼします」と遠藤利彦は強調します。さらに、この関係は母子に限らず、身近な大人との一対一の関係作りにも当てはまると指摘します。「不安なとき、困ったときにはしっかりと抱きとめ、挑戦するとき、頑張るときには見守ってくれる、包容力のある人の存在が、赤ちゃんの心身の成長、発達のためにも不可欠」だと記事は続きます。先の高校生の娘と母親の関係についても当てはまるように思います。
このことは、学校も同様でしょう。ただし、安心させるために同情して哀れむのはかえって成長を阻害します。「大人がいつも先回りして『やってあげる』ことは、子供の発達には決してプラスにならない。」と遠藤利彦が警戒するように、可能な限り自立を促す関わりを私たちは模索すべきです。だから、きらの子座の母親のくっつきは評価されるのです。
「高校生にもなって」ではなく、悩む娘を肌で心配する母親の存在の大きさが娘を救うのです。そして、娘は社会で生きる術を自ら獲得していくのです。親が先回りして事を荒げないようにすれば、その時は収まりますが、子供は成長しません。私たちの大事な使命は、子供の成長、自立です。全うに生きる人間として成長するよう促すのが教育です。
むろん、簡単なようで…ですけれど。
(平成22年1月8日)