校長からのメッセージ

「学校経営目標に込めた想い」

    本校の学校経営目標は、


     「一人一人が笑顔で自分の人生を歩んでいけるよう、全教職員で全児童に対し、寄り添い、伴走する学校」


です。


  「一人一人」の対象は、子供、教職員、保護者、地域、外部機関、他校・・・です。「全体」という一括りではなく、「一人一人」に思いを巡らすことを大切にしていきたいと思っています。

  

    「笑顔」には、瞬間的な幸せだけでなく、持続可能な幸せ【ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)】を込めています。

  

    「一人一人が笑顔」になれるよう、「みんなちがって みんないい」と、自分も他者も大切にし、多様性を理解し尊重し合えるような関係を築きたいと思います。「笑顔」を求め、ただ「多様性を尊重する」だけではなく、「多様性を理解し尊重する」ことを目指したいです。

  

    この「理解し」には、私が異文化理解から学んだことを込めています。

  

 私は大学時代、異文化理解を学び強く興味をもつようになりました。実際に生活しながら理解を深めたいと思い、大学卒業後、アメリカの田舎の小学校で日本文化を教えるボランティア活動を1年間行いました。


 お世話になったホストファミリー宅では、トイレのドアは使用時以外、少し開けておくのがマナーでした。私の実家では、ドアは常に閉めておくのがマナーです。始めこの奇妙なマナーに違和感をもちました。しかし、生活するうちに何となくわかってきたのです。


 そもそもこの空間は、便器しかない日本のトイレとは違い、バスタブや洗面台も共存するバスルームと言われる部屋です。臭いが気になる日本のトイレに対し、このバスルームは身体をきれいにするイメージのある部屋です。


 また、実家のトイレは常にドアが閉まっているため、使用中か否かを確認するには、開ける前に一度ノックする必要があります。中にいる人もノックし返すか何らかの返事をしなければなりません。しかし、このバスルームは外からドアの開閉状態を見れば使用中か否かは一目瞭然なのです。逆に、便器からドアまでに距離があるため、ノックされてもノックを返すことはできません。声による返事には少し恥ずかしさも感じるでしょう。


 そのようなことがわかってくると、奇妙な感じが一変し、ホストファミリーの生活スタイルにまさに適合したマナーであると感じるようになりました。一方、我が家のマナーも我が家の生活スタイルにうまく適合していると再認識しました。


    二つのマナーはそれぞれ正反対の行為を求め、逆の文化から見ると互いにマナー違反になります。でも、相手の文化を知り、その考え方、感じ方等を理解し、寛容な精神で対峙すると、両者に善悪や優劣はなく、両者は単に違っているだけで、それぞれの文化の中でうまく回っていると思えるようになりました。このような異文化理解の経験をたくさんさせていただきました。


 始めは日本文化とアメリカ文化の違いとして大きく捉えて見ていましたが、そのうち、みんな一人一人違う、一人一人が異文化であると考えるようになりました。更には、それまで「違い」に着目しがちだった傾向が変わり、どうして文化が違うのにうれしいときの表情が同じなのかなどと思うようにもなりました。異文化といいながら、むしろ我々は共通点の方がはるかに多く、基本は同じ。だから異なる一人一人がつきあっていけるのではないかと考えるようになりました。


    私はアメリカに行ってアメリカ文化をたくさん学びたいと思っていました。しかし、それ以上に日本という国がどんな国なのかを学んできたように思います。異文化のフィルターを通して見ることで、今まで意識しなかったことも気づくようになりました。自国にいるから自国のことをよく知ることができるのではなく、しっかりと比較できるものがあって初めて自らの特徴が見えてくるように思いました。


    「多様性を尊重する」だけでは本当の意味で受け入れることには至らないのではないでしょうか。「理解し」て初めて、善悪や優劣でなく、単に「違い」として、どれにも同等の大切さを感じながら、多様性を尊重できるようになるのだと思います。また、自分という人間がどういう人間なのかを理解する上でも必要なことです。もともと人には、自分がもっている価値観や常識は普遍的に正しいものだと思い込みやすい傾向があります。「多様性を理解し尊重する」ことは大変なことですが、一人一人に対して追い求め、共有していきたいと思います。


    私はこのような想いを込めて、学校経営目標「一人一人が笑顔で自分の人生を歩んで行けるよう、全教職員で全児童に対し、寄り添い、伴走する学校」をつくっていきたいと思います。


                                  沼津市立大平小学校長 小口 芳夫