2/10(水) LOVE。。 18
- 公開日
- 2021/02/10
- 更新日
- 2021/02/10
校長室発
選択事項(オプショナル)としての苦しみ
あるとき
パリのホテルの部屋で寝転んで、
インターナショナル・
ヘラルド・トリビューン紙を読んでいたら、
マラソン・ランナーの特集記事が
たまたま載っていた。
何人もの有名なマラソンランナーに
インタビューして、
彼らがレースの途中で、
自らを叱咤激励するために
どんなマントラを頭の中で唱えているか、
という質問をしていた。
なかなか興味深い企画である。
それを読むと、
みんな本当にいろんなことを考えながら、
42.195キロを走っているのだなあ
と感心してしまう。
それだけフル・マラソンというのは
過酷な競技なのだ。
マントラでも唱えないことにはやっていけない。
その中に一人、
兄(その人もランナー)に教わった文句を、
走り始めて以来ずっと、レース中に
頭の中で反芻しているというランナーがいた。
Pain is inevitable. Suffering is optional.
それが彼のマントラだった。
正確なニュアンスは日本語に訳しにくいのだが、
あえてごく簡単に訳せば、
痛みは避けがたいが、
苦しみはオプショナル(こちら次第)
ということになる。
たとえば走っていて
「ああ、きつい、もう駄目だ」と思ったとして、
「きつい」というのは避けようのない事実だが、
「もう駄目」かどうかは
あくまで本人の裁量に委ねられていることである。
この言葉は、
マラソンという競技の
いちばん大事な部分を簡潔に要約していると思う。
BY 「走ることについて語るときに
僕の語ること」村上春樹