学校日記

3/7(日) LOVE。。 48

公開日
2021/03/07
更新日
2021/03/07

校長室発

https://swa.numazu-szo.ed.jp/numazu411/blog_img/2085071?tm=20240127115407






100マイル。

おおよそ170kmの間、山道を走る。

そのスケールを想像できるだろうか?


富士山を1周するレースもあれば、

モンブランの麓を走るレースもある。

それぞれのコースに個性があり、

その個性を味わうために1年に1度、旅をしている。


中でも僕が好きなのは、

特に険しいとされているレースだ。

走っている30時間もの間に、

富士山の頂上から麓までを3往復するくらいの

高低差があるような、

パーティカルなレースが僕には合っている。


両手両足を使わなければクリアできないような

巨大な岩を登ることもあれば、

延々と続く階段を細かくステップを刻みながら

降りていくこともある。

道は、

土地によって異なっていて、

自然の地形に合わせて作られている。

気持ちのよい稜線、

山脈の合間、

延々と続くサトウキビ畑、

見通せないほど広大なカルデラ渓谷。

その地形を味わいながら、

少しずつ足を前へと進める。


雲の下から山を登りだして、

夕暮れと共に雲海の上に顔を出し、

星空を見ながら稜線を走る。

その美しさに見とれながら走っていれば

30時間はあっという間に過ぎていく。

ただし、

30時間も走っていれば、

睡魔に襲われることもあれば、

しばしば幻覚にも誘惑される。

睡魔に打ち勝つために、立ったまま眼を閉じて、

7秒数えて、また走り出す。

ほんの7秒の“睡眠”で、

意識を取り戻して走ることができる。


エイドステーションには

野戦病院のようにランナーが倒れ込み、

泥だらけの人間たちは

自分自身をギリギリのところで試される。


けれど、

僕にとって100マイルレースは、

じつは全然苦しくないスポーツなのだ。

もしも50kmの地点で力を出し切ってしまったら、

絶対にゴールまでは続かない。

どれだけ余力を残しながら走ることができるか。

それが長い距離を完走するためのコツだと思う。

余力があるからこそ、

選手同士でおしゃべりもたくさんすれば、

星空を見上げて立ち止まることもある。


ゴールをして必ず思う感想は、

「ああ、もう一度走りたい」だ。

170km走り終えた後に

そう思うほど余力が残っていなければ、

完走することはできないのかもしれない。

もちろん

ゴール直後はいつも体がボロボロになっていて、

宿に帰るのさえ一苦労なのだけれど。


あれだけ長い距離を走るのなら、

誰かと一緒に走ったほうが楽しいに決まっている。

必ず、一人になる時間もある。

いや、

一人の時間のほうが遙かに長いのだ。

だから、

延々と続くサトウキビ畑の先に、

信じられないような上り坂の果てに、

雨で樹々が濡れた真夜中の森を抜けたところに、

“誰か”が立っているだけで嬉しくなる。

誰かの存在は、走る力になる。

もしもその人が、

自分の信頼を置く、

愛すべき友人だったらどうだろう。

その再会の感動は、

日常生活では得られない

特別なシチュエーションになるはずだ。

僕はいつも、

次のエイドステーションでは何を話そうか

と考えながら走っている。

レースだけでなく、

人生をサポートしてくれる仲間たちを、

どうやってら笑わせられるか考えながら走っている。


100マイルという長い距離が、

あらゆるものをドラマチックに演出する。

人との出会い、

久しぶりの睡眠、

補給のために口にするひとかけらの果物。

だから風景ひとつで涙がこぼれるし、

自分の体の声をきちんと聞くことができる。

トレイルランニングは、

最高に自由で、

涙が出るくらい幸せなスポーツだ。

100マイルの中に、

人生の機微が凝縮され、物語となって編まれている。


今年も新しい物語の中で、

思いきり自分を解放して、

野生動物のように走りたいと思っている。





濃霧の中で、

道もハッキリとわからない。

しかも眠くて、

ものすごく苦しい。

かなり急な坂を、

ストックを使いながら全身で登り、

ヘッドライトで道を照らしながら歩く。

登りの一歩を踏み出す度に、

意識がふわっと飛びそうになる。

これが100マイルの洗礼かと、

苦しさに追い詰められそうになった時に、

それまで視界を遮っていた霧が一気に晴れた。

霧が晴れた瞬間に、星空が見える。

自然と涙がこぼれて来て、

思わず立ち止まってしまった。

自然と涙がこぼれて来て、

思わず立ち止まってしまった。

眠気も、霧と共に晴れた。

「ああ、

 無事に雲を抜けることができて嬉しい。

 ありがとう」

どうしてか、感謝しながら走っていた。

がんばろうという気持ちなんてほとんどなくて、

心はありがとうで満たされている。

走ることができるようになった

自分自身の体に対してだけでなく、

この大会を開いてくれている主催者、

同行してくれている越中さんはじめサポートの仲間、

送り出してくれた家族、

地元の仲間、

応援してくれる生徒たち、

あらゆる人々、

あらゆる事象に感謝して走っていた。

感謝しながら走っていると、

体が本当に動く。

その成功体験によって、

僕はますます欲をなくして、

感謝に満たされながら走るようになっていく。


BY 「トレイルランナー ヤマケンは笑う」 山本健一













走っていていい景色が見えたら「わお!」と喜ぶ。

苦しいときには「ウォー!」と吠える。

苦しくても、キレイな景色を見ても、

心が動いたら、とにかく叫ぶこと。

BY 山本健一