人と同じことをしなくてもいい



リスクのある道を選んでもいいのだ



大学を卒業した。

３５年前のことだ。

医者がいなくて困っている病院があった。

医者が四人しかいない。

累計赤字４億円。

田舎のつぶれそうな、どうしようもない病院。

先輩から、

都落ちしてはだめ、

一生偉くなれないぞと忠告された。

東京の国立大学を卒業して、

同級生の中で、当時一人も、

東京を離れる若い医者はいなかった。

だからこそ、ぼくは都を下った。



父の言葉が支えとなった。

「弱い人を助ける医者になれ」。

人は中央へ、

大きな組織へ、

大きな会社へとあこがれる。

だからこそアマノジャクなぼくは、

弱い人を助けるために地方へ、

ちっぽけな病院へと向かった。

人と同じことをしない人間が時々いる。

これが大事なのだ。



３５年前の４億円はとても大変な額だった。

借金を返し、２万坪の土地を買って、

困っている患者を投げださない病院をつくった。

病院のまわりに

特養やホスピス、老健、

回復期リハビリ病棟などを次々とつくっていった。

貧乏だった病院に２０億円ほどのお金もたまった。

若い人にすべて譲った。

５５歳で勇退した。

定年より１０年早い。

チェルノブイリや

イラクの病気の子どもたちを救う活動を始めた。



下ること。

小さいところへ行くこと。

リスクのある道を選ぶこと。

これも人生。

だから人生はおもしろい。



BY　「へこたれない」　鎌田實