終業式2
- 公開日
- 2016/12/22
- 更新日
- 2016/12/22
校長からのメッセージ
以下のようなATM物語3を流しました。
A 兄からもらった本と手紙は私を大きく変えてくれたと思います。そして、兄の温かさも伝わってきました。感動の中で読んでいき、最後には涙が出てきましたが、今まで流した涙とは違う涙であったと思います。そのわけをこれから皆さんに伝えたいと思います。
兄は高校3年生、受験シーズンも終わり、大学への進学も決まりました。私はそれまで一生懸命頑張っている兄の姿を横目で見ながら、「受験生って、大変なんだな。来年は私も高校受験だ。」と思っていました。しかし、兄は進路が決まった後も、一生懸命勉強していました。
「兄ちゃん、大学も決まったのに、なんでまだ一生懸命勉強してるの?」
と聞くと向き直って、いつものように落ち着いた口調で
「咲恵、お前、勉強は何のためにするのか、考えたことあるか?」
と聞き返すのです。
「何のために?……合格するためでしょ。」
「じゃ、何のために合格したいんだよ。」
「そりゃ、その学校に行きたいからに決まっているよ。」
「何で、その学校に行きたいんだ?」
(始まった、全く理屈っぽいんだから)
「その学校に行って、自分が進みたい進路を歩みたいからだよ。もう、分かったよ。兄ち
ゃんは合格のために勉強しているのでないってこと。」
「まあ、この本を読んでしっかり生き方を考えてみることだな。」
と言って一冊の本を渡されました。その本を受け取りながら、
「あたしは、明るく、楽しく、前向きに過ごせればいいと思っているだけだから」
と言って、(あれじゃ友だちからも浮いてるだろうな。)などと思いながら自分の部屋に向かい、本を開かずに机の奥にしまいました。
思いつきで行動する私とはまったく違い、じっくりと考え行動する兄とは波長が合わないですが、それなりに仲がいいのです。そんな兄が3月終わりには大学進学のために東京に行ってしまうので、何かさみしさも感じ始めていました。
T 東北の3月の朝は寒いです。
「今日は、3年生の卒業式準備で部活もないから早いよ。」と母に話しました。
「俺は今日、柴田と釣りに行ってくるよ。大学行くとなかなか遊べなくなるからね。」
「そう、楽しんできなさい。」と母が答えていました。
「行ってきます!兄ちゃん、柴田さんと釣りなんていいなあ〜」
「ああ、今度映画でも行くか?」
「本当?本当だね、楽しみにしてるよ。行ってきま〜す!」
と元気よく家を出て行きました。兄ちゃんともあとわずかだからなと思いながら登校しました。
「さあ、明日の卒業式、3年生にとって思い出に残る素晴らしい式になるよう準備しよう。」
という先生の掛け声で午後から卒業式準備に入りました。私は体育館の準備をしました。手際よく協力しながら椅子の準備、飾り付けも終了し、いつもより華やかな体育館が出来上がりました。
「来年は私たちが卒業、卒業なんかしたくないよね。このまま時が止まったらいい。」と言うと友人たちも大きくうなずいていました。教室に戻り、帰り支度をしていました。その時、信じられないような大きな揺れが襲ってきました。
そう、平成23年3月11日午後2時46分、窓ガラスが割れ、あちこち物が落ち、みんなパニック状態になりました。
そして、間もなく大津波が押し寄せ、大混乱となりました。学校は高台にあったので、何とか生き延びることができました。
私たちはそのまま学校での避難生活となりました。食事もままならない状況でしたが励まし合って過ごしました。多くの方々が亡くなったという話が入ってきました。家族のことが心配で不安な時間が続きました。
しばらくすると、何人かの家族が迎えに来て、友人が家族と抱き合って再会していました。その様子を眺めながら、私の家族はどうなってしまったのかという不安な気持ちが膨らんでいくのでした。
三日後、両親が迎えに来てくれ、大きな喜びで抱き合いました。そして、「兄ちゃんは?」と聞くと、「直秀は、…直秀は、…だめだった。」と父が言うのでした。「嘘でしょ!嘘でしょ!」と泣き叫ぶ私を、両親はもう一度強く抱きしめ続けるのでした。
M 前向きな気持ちになれずにどんよりとした日々がずっと続いていました。友人や先生など多くの方々から励ましの言葉をもらうたびに、「下ばかり向いていないで、上を向かなくては」と強く思うのですが、一人になるとまた重く沈んだ気持ちになっていくことを繰り返すのです。
幸いにも家は、元のままです。兄の部屋は、片付けることができませんでした。兄の部屋に入っては、蘇ってくる姿を追いました。そして自然と涙が流れてくるのです。ショックからなかなか立ち直ることができない日々が長く続きました。
半年以上経って、進路を考えなければいけない時期となりました。いろいろな方々に支えられて、少しずつ日常を取り戻してきた私ですが、なかなか前向きに進路を考えることができない状態でした。勉強にもなかなか身が入りませんでした。
「やる気が出ない時には、環境を変えるといい」という先生の話を思い出し、部屋の片付けを始めました。周辺を片付け、机の中も整頓し始めました。すると、「涙の数だけ大きくなれる!」という木下晴弘という人の本が出てきました。
「ああ、これは、あの時兄ちゃんからもらった本だ」
と思い出しながら手にとってパラパラとめくっていきました。どうせ、理屈っぽい難しい本だろうなと思って何も読まないで机の奥にしまっておいた本です。
少しめくっていくと、「今は苦しくても、どうにもならない状況に置かれても、人は何かのきっかけで変わります。そしてそこには必ず美しい涙があります。人は涙の数だけ大きくなれる。」という言葉に釘付けになりました。
片付けを中断して、初めにページを戻して読み出しました。そのまま一気に読み終わって、最後のページをめくり終わると、一枚の紙が挟まれていました。それを開くと懐かしい兄の字でした。
咲恵、この本を最後まで読み終わったかな?この本は、兄ちゃんが夢を失いかけて、やめてしまおうかと思った時に出会った本だよ。これを読んで、もう一度、自分の夢を追いかける力が湧いてきた。
4月から家を離れて大学に行くに際して、咲恵には父さん母さんのことを頼むとともに、きっと人生に悩む時期を迎える咲恵には、この本をプレゼントしようと思って、もう一冊買ったんだよ。兄ちゃんが感動した言葉を二つ書いておくよ。
「人はしばしば目標を見失い、生きることに苦しみ悩むことがあります。
しかし、その苦しみは、永久には続かないのです。
人間は常に変わることができるからです。」
「どんなにつらい時でも、どんなにくじけそうな時でも、人生に失敗なんてない。
全力で生きる時、人は輝いているのです。」
この本を読んで、この二つの言葉の他、いろんな文章に勇気づけられて、落ち込んでいた気持ちを脱して、また夢に向かって踏み出すことができた。咲恵も苦しい時、この本からエネルギーをもらってほしいと思っている。
もう一つ、兄ちゃんが大切にしている言葉を書いておこう。
「諦める一歩先に必ず宝がある」
「もうだめだ」って思った時に、もう少し頑張れば、ほんのちょっと先にゴールがあるかもしれないよ。
咲恵頑張れよ。お前は、昔から、どんなことがあっても、
「あかるく、たのしく、まえむきに」
過ごしてきた人間だから、あきらめずに頑張っていけば、きっと光が見えてくるだろう。そんな姿を期待しているよ。兄ちゃんも大学で頑張るから。
兄の手紙を読み終わると、今までに感じたことがない力強い涙が頬を伝わっていきました。そして、心の底から
「ありがとう。兄ちゃん。あかるく、たのしく、まえむきに、生きていくよ。」
と強く念じました。
ATM物語3 はどうだったでしょうか。ATM物語もこの3で終了とします。
今回は10月19日(水)に行われた連合音楽会合唱曲(ハナミズキ)とその直後に訪れた仙台の中学生の素晴らしい合唱の二つを重ねてイメージしながら創作した物語でした。
今回の「あきらめずに、最後まで」シリーズでは、
「諦める一歩先に、必ず宝がある」
という言葉を皆さんに伝えたかったです。皆さんの今後の粘り強い行動を期待しています。
それでは、明日から始まる冬休み、QC記録表をコツコツと書き込みながら、家族と温かく、よい年を迎えてください。
そして、1月5日(木)に「あかるく たのしく まえむきに」再会しましょう。
以上で終わります。