中村伸一先生をご存じでしょうか。
- 公開日
- 2017/07/10
- 更新日
- 2017/07/10
校長からのメッセージ
7月6,7日、東海北陸中学校長会研究協議会に行かせていただきました。今回、2日目に聴講した講演が素晴らしいものでした。演台は「実践的幸福論〜誰もが幸せになれるための確かな方法〜」。講師は中村伸一先生です。福井県おおい町で診療所の所長をされている方ですが、皆さん、ご存じでしょうか。
中村先生は、自治医科大学地域医療学の臨床教授もされ、平成21年にはNHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」(月曜10時過ぎ放送)にも出演されたそうです。話の内容というより、先生の生き方が人柄が素敵で魅了されました。あっという間の80分でした。
茂木健一郎氏がパーソナリティーを務める「プロフェッショナルの流儀」。番組の最後に茂木さんが、出演者に尋ねる言葉が、「○○さんにとって、プロフェッショナルとは?」です。中村先生は次のように答えたそうです。
「逃れられない困難な状況にあっても、それを宿命として受け入れる。なおかつ、時として、それをプラス思考にして楽しんでいく。そういうことが出来るのが、プロフェッショナルじゃないでしょうか。」
中村先生は昭和38年生まれ。平成元年に自治医科大を卒業され、平成3年から旧名田庄村(おおい町名田庄地区)に赴任し、同地区唯一の医療機関である国保名田庄診療所の所長になった。実は、最初から地域医療を志していたわけではない。大学時代は難手術をこなす外科医にあこがれていたし、名田庄に赴任してからも数年は、その夢を引きずっていた。しかし、たった一言が、中村先生の道を決めたそうだ。
赴任して3年目のある夜、中村先生は、ひたすら自分を責めていた。くも膜下出血を見抜けなかったのだ。長距離運転をした後、酒を飲み、肩が痛いと訴えていた62歳の女性患者。前兆が非典型例だったため、見抜くのは簡単ではなかったが、見逃したのは事実。近くの総合病院に救急搬送した後、家族の車に乗せられて村に帰る道すがら、中村先生はひたすらわびた。責任をとって医師を辞めようとさえ思った。その時、言われた言葉が、
「夜中に何度も起こして悪かった。間違いは誰でもする。先生、お互い様じゃ、ないですか。」
寄り添い、助け合って生きる暮らしが残る村。だからこそ人々に備わる心の広さ。中村先生はそれを実感すると同時に、自分は、地域の人に見守られ、育てようとされていることを実感したという。まもなく、中村先生は村と結婚することを決めた。
次のような話が続いた。
78歳、肺炎を患う男性患者。病気に対して神経質なその患者は、中村先生に関わりながら、やがてうつ病になる。先生としては専門医に任せるのが最適と判断し、専門医を紹介する。精神科の医師からの連絡を受け安心していたが、1週間後、その男性は首つり自殺をしてしまう。自分が精神科を紹介した事が裏目に出てしまった。先生は悲しみと申し訳なさでいっぱいの気持ちを抱え、奥様に詫びるため車を走らせる。奥様に会うや、土下座をして謝ったそうだ。2分ほど頭を下げ続けたとき、奥様のすすり泣く声が聞こえた。頭をあげると奥様の方が土下座をしていた。「先生、名田庄をやめんでください。」この言葉に救われ、今も医師を続けていられるが、なぜ、先の例と同じように許してもらえたのか。先生の答えは、「言い訳をせず、まず誤ったから」。人が幸せになるためには、もっと不幸にならないため、言い訳をせず、まず誤ることだ。
「実践的幸福論〜誰もが幸せになれるための確かな方法〜」の一つ目は
<言い訳せず謝ることと許すこと>
これだけで、先生の話に魅了されました。二つ目は、「利他」でした。
61歳男性。胃癌患者。できるだけ在宅で延命してほしいと言ってきた患者さんに、余命3か月のところ、10か月まで延命した。その時、この患者の医療に大学からの学生たちが実習で関わった。この学生たちは、中村先生について患者の家まで行き、先生の患者に対する温かい応対を学んだ。学生たちは実習が終わる頃、末期ガンの患者が中日ドラゴンズファンであることを知り、球団事務所に掛け合い、立浪選手のサインを手に入れた。この患者にプレゼントするためだ。自分を見舞うために学生たちが家を訪ねてきてくれたこと、大好きな選手の色紙をプレゼントしてくれたことに、患者は涙を流して喜んだ。その患者は2ヶ月後に亡くなられた。
学生たちが帰っていく間際に患者さんが伝えた言葉が、「いい医者になってや。」だった。
今、この学生の一人は外科医として活躍している。中村先生の思いを受け継ぎ、中村先生の診療所で対応できない患者を、この外科医が診察しているそうだ。その医師がテレビ取材の中で「中村先生のもとで、患者を診る心が養われた。病いを語り、人生を語ってくれた患者さんから教えられた。」と。
「実践的幸福論〜誰もが幸せになれるための確かな方法〜」の二つ目は
<情けは人のためならず>
「恩」を受けたら、その「恩」はどんどんと回っていきます。そして、また自分のところに返ってきます。「誰かのために」自分を生かすことの素晴らしさをあらためて感じることができました。私たちの仕事も同じです。生徒たちのために誠実な取組、熱心な取組をしている先生方を見ていると、子供たちが先生を見習い、一生懸命、頑張ります。それは、やがて社会に出ても生きてきます。私たちが生きていく社会を支えてくれるのです。そんな生徒たち一人一人の尊厳を大切にして、頑張らなければと思いました。